化粧品の安全性について
1980年の後半、毎日のように銀座のある場所に出掛けていました。銀座博品館の斜め前のビルにはフランスの某化粧品メーカーのオフィスがありました。私の仕事はIBM社のパソコンでその会社の業務管理全般を行うシステムを開発する事でした。この化粧品メーカーがその当時に最大の課題としたのがアンチエイジングとスキンケアでした。
30年ほど前の化粧品は肌の手入れより、メイクアップが中心でした。その化粧品メーカーの美容部員は毎日のようにフランス仕込みのメイクアップ技術を学んでいましたし、化粧品の売り上げの分析をしてみますと、メイクアップやフレグランスが売上の大半を占めていました。一部にクレンジング等の伸びも見られましたが、サンプルとして貰った化粧品の多くがフレグランスでした。
化粧品を日本の市場で販売するためには厚生省の認可が必要になる訳ですが、それでも事故が絶えないのは何故か?当時、厚生省の認可を取るための仕事をしていた担当者とも話す機会があり、認可を得るためにはテクニックがあると聞きました。不正を犯す訳では無いけど、認可をする基準を満たすだけではスムーズに行かないので、それなりに色々と工夫するということです。
化粧品の場合、どうしても避けて通れないのが即効性とも聞きました。多少刺激が無いと効果が出るまでに時間が掛かり、店頭などでは理解して貰えないと言うのです。デパートの化粧品コーナーで対面販売するような化粧品の場合、その場でサンプルを試して貰って何も変わらないとインパクトが無くて、多少の刺激を感じる程度に成分を調整してしまうのが現状だと聞きました。
この多少が人によっては長く使い続けるとマイナスに働く場合もありますが、それでも厚生省の基準には適合している訳です。化粧品メーカーの化粧品が肌に合わなくて、でも事故という程では無く、皮膚科を訪問する患者さんは後を絶ちません。これを皮膚科の医師の立場で説明して頂きますと、納得出来る答えが返ってきました。
化粧品の開発者は医師では無い・泡で洗う
非常に単純な事ですが、化粧品の開発者は医師である事は非常に少ないのです。化粧品の開発者は経験とか基準で使用できる薬剤や成分を組み合わせ、想定した効果を出すような製品を開発します。医師は薬剤を治療の為に使いますが、化粧品の開発者は過去のデータ等から安全で売れる商品の開発に従事します。根本から開発の姿勢が違う訳です。
これはある医師の話ですが、肌は様々な理由で損傷を受けます。この損傷を和らげ、回復力を助けるのが治療です。ニキビやアトピーも様々な理由による皮膚の損傷で、体の内部の問題で肌が損傷するアレルギーのようなものから、皮膚そのものの衛生面が悪くて発症する皮膚炎や皮膚が必要以上の刺激を受けて損傷するものまで様々な種類があります。
スキンケアの基本は「衛生面」にあるというのが、医師の立場で最初に考える事だと言います。肌の洗い方一つで数年後から10年後の肌が違うというのです。絶対にダメなのが「ゴシゴシ洗う」です。若い時は何気なく石鹸で「ゴシゴシ洗う」事が多いかと思いますが、これが年頃の「ニキビ」を産んでしまう原因の多くだそうです。
肌を洗うベストな方法は「泡で洗う」ことと医師の方は言われます。ただ石鹸を泡にしても洗う事にはならず、泡に包まれるだけです。なら出来るだけ軽く洗う事ですが、しっかりした泡が作られる洗顔剤を作れば良いという発想で「洗顔クリーム」が生まれました。
今では「泡で洗う」という概念は珍しく無くなってしまいましたが、35年前にこの化粧品が生まれた時には「泡で洗う」唯一の「洗顔クリーム」だったそうです。「泡洗顔」は今でこそ大手の化粧品メーカーも手掛ける化粧品になっておりますが、医師が生み出し35年変わらない唯一がこの「PFD・プール・ファム・ドゥ・ダージュ」だそうです。
医師だから出来る開発・UVサンプロテクト
「PFD・プール・ファム・ドゥ・ダージュ」と名付けられた化粧品は3人の医師が「従来の化粧品では改善しない肌の悩み」に取り組んで完成させた化粧品です。治療の為のと考えた方が自然なのかもしれませんが、大手のメーカーが医師にお願いして化粧品を開発しても背景は随分違うようです。大手の化粧品メーカーは販売する為にデパート等に派遣される美容部員や営業のスタッフ、在庫管理部門の担当者から経理や広告代理店まで様々な立場の意見を尊重せざるを得ません。そうしなければ会社が成り立たないのです。
良くても分かり難い商品は作れないのが大手化粧品メーカーの本音だそうです。確かにパッケージも成分も理想的な商品に仕上がったとしても、店頭で販売する時にお客様に試用して頂くと、水を付けたのと変わりないとなったら、良さそうだけで良く分からないという言葉が返ってきます。皮膚科で肌に悩みを持った方が、医師から「あなたの肌には刺激を避けて、優しい成分の化粧品に変える事が一番良いですよ」と指導されたら、反応は全く違うでしょう。
「PFD・プール・ファム・ドゥ・ダージュ」のUVサンプルテクトを肌に伸ばしてみると何も感じません。これは肌を整える化粧品では無いので、まあ当然なのですが刺激らしい刺激はまず感じません。そのまま炎天下に出掛けて戻って来るとそれなりに腕は赤くなっています。ただ後に感じるヒリヒリした痛みや痒さはありません。しっかり守ってくれたと実感できます。この自然で優しいのに効果があるというのが医師の狙いなのだと言います。
化粧品をより売るためには、普通の事を普通に達成するだけでは難しいと言われます。これは凄いと驚いて貰うインパクトを求めれば当然のように刺激が出来てしまいます。医師達にはそんな事は不要なので、必要な事が普通に出来て、余計な事はしない化粧品として仕上げてしまいます。多少何か出来るとしたら、パッケージぐらいでしょうか?奇をてらわない品が良いデザインが好きという方も多くて、パッケージにもファンが出来ました。でもインパクトを求めたデザインにはならなかったのも事実ですね。